製造記録や品質試験記録の改ざんなどの不正から患者を守り、製品の安全性を確保するための規制として監査証跡があります。データの完全性を守る、データインテグリティの大事な機能の一つです。
近年、記録を作成する際には手書きではなく電子作成が主流になっています。とはいえ記録の保管には紙に印刷して手書き署名(記名・捺印)されることが多いのが現状。そうなると、印刷する前に電子記録を改ざんすることも可能になります。このような不正を予防するために導入されているのが監査証跡です。
監査証跡は、データ記録に対して「いつ、誰が、何を、なぜ」に関する履歴がわかるようにしたコンピュータ生成のタイムスタンプ付き電子記録です。作業工程による電子記録の作成・修正・削除について再現することができます。
監査証跡がない電子記録は、改ざんやねつ造の可能性がないと言い切れないことから、査察が実施されません。査察が実施されないということは、その医薬品は出荷できないということ。開発・製造元の企業としては大いに困ることになります。
米国食品医薬局(FDA)は電子記録による信頼性についても厳しい基準を設けています。
1997年、FDAは電子記録の信頼性に関して要求事項として「21 CFR Part11」を発行しました。その内容は現実的に実施するには難しいものが多く、特に問題となったのはコンプライアンスコストでした。
規制案件を順守すると、それにかかるコストが高額になってしまい、その分が薬価にプラスされてしまうので、エンドユーザーである患者に負担を強いる形になります。それではどんなに良い薬であっても、一部のお金を持っている患者しか使えなくなってしまいます。
そうした矛盾を回避するため、2003年に医薬品監視指導方針「リスクベースドアプローチ」を発表。リスクの高い医薬品の製造や品質試験に対しては、コンプライアンスコストを十分にかける必要があるが、リスクが低い医薬品の場合には、そのリスク相応のコンプライアンスコストでいいとするものです。
製薬が異なれば、そのリスクも異なります。リスクが低いとされているものにはビタミン剤や栄養剤が当てはまり、ハイリスクに相当するのは、抗がん剤や向精神薬、ワクチン、血液製剤などとなっています。また、管理体制でもリスクが異なります。こうした状況を鑑みて、製薬企業の品質保証をハイリスクの医薬品に集中させています。