2021年8月の改正GMP省令により、医薬品業界における「製造のデータインテグリティ」対応が大きな課題になっています。生産性・品質を維持し、完全で一貫性があり、正確であるといったデータインテグリティ対応を実現するための最適解として、システム導入による電子化・自動化のカギを探ります。
データインテグリティとは、情報処理などの分野で使われる用語で、「完全で⼀貫性があり正確であるデータ」のこと。製薬業界では患者の安全性確保を目的に使われています。
データインテグリティ自体は決して新しい概念ではなく、これまでGMP(Good Manufacturing Practice)などにおいて要求されてきた、いわば常識でもあります。その要件は
5つの原則からなるALCOA原則、もしくはその拡張版である9つの原則からなるALCOAプラスに当てはめて考えられています。
データに改ざんが発⽣するなど、データインテグリティが脅かされる原因としては、「事故による変更」「故意による変更」「不正」「削除」が挙げられます。
製造ラインにおいては、適切なコンピューターシステムを設計・導⼊しなければ、データが事故または故意によって、書き換えられてしまうリスクが大きいと言えるでしょう。
製造現場をデジタル化し、監査証跡で変更履歴、改ざんの確認等ができるような状態にすることが必要です。
データインテグリティ対応のため、⽣産現場をデジタル化するにあたっては、制御装置であるPLCなど下位システムの持つ情報を、上位システムであるMES(製造実行システム)へ集積し、上位システムから下位システムへ適切な指⽰を⾏えることが必要不可⽋です。
しかし国内製造現場においては、MESとPLCの間にソフトウェアプラットフォームが導⼊されていないために、紙の作業指示書と紙の作業記録をベースとして、⼈が介在しているケースも少なくありません。
このMESとPLCの間を、デジタル化によりシステムの垂直統合を測ることで、記録、操作、承認作業の⾃動化・電⼦化が実現可能になります。
一概に電子化・自動化と言っても、実際のところ古い機材と新しい機材が一緒になっている現場では、どこから手を付けてよいのか分かりにくく、既存システムとの置換も難しいケースが多いのではないでしょうか。
実際、データインテグリティのために、すべての機器を入れ替えるのは時間やコスト、ノウハウもかなり必要です。また、医薬品業界特有であるコンピューター化システムバリデーション(CSV)のハードルも高くなります。
そこでデータインテグリティ対応、⽣産現場のデジタル化に向けて、医薬品業界を熟知したソフトウェアパッケージの活⽤が有効な選択肢のひとつになります。最も分かりやすいのは、既存のタッチパネルをSCADAに置き換える方法。
完全な置き換えが難しい場合には、重要なGMP関連パラメータ関連の設定、監視、記録だけをSCADAから行うよう、部分的に改造する手もあります。
これにより、GMP関連パラメータに絞った形で、データインテグリティが確保された運用が可能になるうえ、コンピュータ化システムの変更範囲を一部に限定することで、バリデーションにかかる労力も大幅に削減されることになります。
結論
データインテグリティを証明するためには、悪意の有無にかかわらず、改ざんの可能性が一切考えられない状態にしなければいけません。
その最適解として、医薬品業界におけるIIoT化のプラットフォームとなるSCADAシステムの導入が、選択肢のひとつと言えます。
データインテグリティ対応に準拠したSCADAシステムとしては、COPA-DATAの「zenon(国内販売元:リンクス)」や、シーメンスの「SIMATIC SCADAシステム」があります。※2021年10月25日調査時点
医薬品業界におけるデータインテグリティに対応し、監査証跡機能を備えたSCADAソフトウェアであるCOPA-DATA(国内販売元:リンクス)の「zenon」、シーメンスの「SIMATIC SCADAシステム」について、詳しく解説します。
引⽤元:リンクス公式https://linx.jp/lp/zenon/
feature
SCADAが実現する
人とシステムの一体化
zenonが目指すものは、データ収集・蓄積・分析や電子化、プロセス自動化といった、製薬製造工程の様々な場面における「人とシステムの一体化」。
SCADA技術を核として、MESからPLCの領域にいたる幅広い機能を網羅したパッケージになっており、装置単体からライン全体まで、WEB配信、モバイル活用、MESやクラウド連携など、柔軟なシステム構成が可能です。
feature
プログラミングレスで
高度なデジタル化を実現
zenonの豊富な標準機能は、各種設定作業だけ(プログラミングレス)で実装できるように設計。バリデーションを効率化してデータインテグリティを確保し、高度にデジタル化された生産現場を実現することが可能です。
また、監査証跡やユーザ管理などにおいては、予め用意された各種テンプレートを活用できるので、システム構築にかかる工数も大幅に削減できます。
feature
各種PLCと簡単接続!
自在にアプリを作成可能
300種類以上のPLCに対応しており、各種設定だけでデータやアラーム情報の収集が可能。これらの情報から、業界のニーズに合わせたアプリケーションの作成を実現できます。
OPCやModbus通信への対応にもよりますが、zenonに対応しているPLCメーカーには、三菱電機、オムロン、日立製作所、キーエンス、パナソニック、シーメンス、Rockwellなどがあります。
複数のタグ情報を、レシピで一括管理!
zenonでは、異なるPLCやプロジェクトのタグ情報を1つのレシピで使用することができ、レシピの書き込みや新しいレシピに保存、既存のレシピへの上書きも可能。
テキストファイルやXML形式でのエクスポート/インポート、レポートも作成可能で、製造で使用した設定値をドキュメント化することができます。
レシピ機能をユーザ管理機能と組み合わせて使用すれば、レシピの改ざん予防になりますし、レシピの変更の詳細なロギングにより「FAD
21 CER Part11」に対応することができます。
開発元のCOPA-DATA(コパデータ)社は、オーストリアのオートメーション・ソフトウェア専業メーカーです。
1987年に創業以来、IIoTの潮流の重要な一端を担う企業として、その開発実績が世界中から注目を集めてきました。
世界50カ国、累計19万システム以上が導入されているzenon(※)は、医薬品をはじめ、自動車、電力、製薬、食品・飲料業界など様々な産業で広く活用されています。
(※)2021年10月25日調査時点
「生産現場における生産効率の追及」を目指し、ドイツやスイス、カナダ、フィンランドなど世界各国の技術発掘から、実装までを手がけるテクノロジープロバイダ。担当者全員が技術のバックグラウンドを持ち、開発に伴走できる点が大きな特徴となっています。
2017年に、zenonの開発元であるCOPA-DATA社と日本国内および、東南アジア6カ国における総代理店契約を締結。医薬品メーカー、自動車メーカー、飲料メーカーなど、国内有数の企業に導入実績があります。
feature
デジタル化の一手を担う
重要コンポーネント
医療領域をはじめ、他分野にわたりシステム・ソリューションを提供するグローバル企業・シーメンスが提供するSCADAシステムです。スケーラブルなオープンシステム環境に基づき、高い拡張性を有し、デジタル化の重要コンポーネントとして機能。
生産およびMES/ERPレベルからクラウドソリューションまでのデータを垂直統合し、現在課題だけでなく、将来的な課題にも対応します。
feature
ガイドラインに対応した
監査証跡機能
アメリカ食品医薬品局(FDA)が発行している規定「21 CFR Part11」に対応している監査証跡ツールは、操作ログをはじめ、必要なタグ・レシピの変更履歴を記録します。
他にも、データの保存、ユーザー管理、パスワード管理、レポート機能、電子署名、タイムアウト機能など、SIMATIC SCADAシステムに備わっている「WinCC」「WinCC Audit」「OPC UA」で実現可能です。
feature
取得したデータを
分析しノウハウ化
各種サブシステムから取得したデータを集約し、独自データベースを構築し一元管理。集めたデータを効率的に有効なノウハウに分析・変換。目的に応じて評価され、それを通知で受け取ることができるので、オペレーションの効率化を実現します。
また、データやレポートなどは、タブレットやスマートフォン端末などもで確認可能と、いつでもどこでもアクセス可能と操作性も優れています。
シーメンスは、130年以上の歴史と実績を持ち、世界200カ国以上の拠点でシステム・ソリューション事業を展開しているグローバル企業(※)。
日本には1887年に事務所が置かれ、製造(2社)・医療(3社)・エネルギー(2社)と、それぞれでグループ会社があります。
SCADAをはじめとするSIMATICソフトウェアにおいては、製薬会社だけでなく多種多様な業界で導入され、現場から企業経営レベルにまで及ぶ、産業オートメーションを通じた効率化に寄与してきました。
(※)2021年10月25日調査時点
デジタル化ソリューションに向けた
戦略的基盤として有用
グローバル企業としての歴史と実績を持つシーメンスによる拡張性が高いSCADAシステムであり、デジタル化ソリューションを成すための戦略的基盤として信頼できるツールのひとつと言えるでしょう。ユーザーの操作性を考えた機能で、垂直統合の達成を支援し、情報伝達および、その収集・分析・ノウハウ化をスムーズに実現します。
また、アメリカ食品医薬品局(FDA)が発行している「Part11」で求めている監査証跡が可能で、改ざんへの予防体制を取れるので、データインテグリティに対応した現場を実現できます。
データインテグリティの原則は、5つの要件からなる「ALCOA」もしくは9つの要件からなる「ALOCA+」に表されています。紙媒体と電子生データによるハイブリッド運用もありますが、電子化への完全移行を実行する企業も少なくありません。
データインテグリティを保証するため、作成から保存、利用、共有、長期保管、破棄といったデータ・ライフサイクルにそっておこなわれてます。様々な形で生成され年々増え続けるデータを理路整然と扱う事で、業務運営だけでなく経営戦略に活かすための分析に役立ちます。
FDAの医薬品業界監視の方針として、「cGMPs for the 21st Century Initiative」の中で、品質マネジメントシステムと共にリスクドベースアプローチにも取り組むこととしています。これは、コンプライアンスコストでエンドユーザーに不利にならないためのアプローチでもあります。
近年、医薬品の製造や品質保持試験の事故による変更や故意による変更、不正、改ざんなどが多発しています。データインテグリティを脅かす、これらの要因を取り除くことができるシステムソリューションは重要課題です。医薬品製造業では、様々な取り組みがなされています。
データインテグリティの対応では、まず実務担当者への教育体制が重要。データインテグリティの重要性についての理解を深めたら、技術・ITシステム、ガバナンスと進めていきます。特に技術・ITシステムは、国内製造現場においては重要課題ともいえるもの。十分な体制で取り組みたいところです。
データインテグリティは日本国内だけでなく、グローバルレベルでの対応が必要。アメリカ食品医薬品局(FDA)、英国医薬品・医療用製品規制庁(MHRA)、世界保健機関(WHO)のデータインテグリティガイダンスに沿った内容で行わなければいけません。
データインテグリティの実現には、アメリカ食品医薬品局(FDA)が発行しているガイダンスが欠かせません。データインテグリティについて、審査指摘の傾向や注意ポイントをFAQ形式で解説しています。
2021年8月にGMP省令が改正され、データインテグリティに関する要求が盛り込まれました。データインテグリティという用語は使われていないものの、第8条の手順書等の第2項にある、手順書を作成する際には文書及び記録の信頼性を確保するようにといった要求がそれにあたります。
近年、医薬品の監査において、データインテグリティの不備を指摘される件数が増加しています。ここでは、データインテグリティにおける様々な当局要求・不適合事例をピックアップしてみました。
データインテグリティの要求事項に適したSOPを作成するには、そこで使用される用語の定義を正しく理解することが必須です。データインテグリティそれ自体はもちろん、生データやメタデータ、データガバナンスなどの必要な用語について解説しています。
Part11(パートイレブン)とは、1997年に米国FDAが発行したデータインテグリティの構成要素の1種のこと。紙媒体の書類や手書きの記録などと、電子記録・電子署名を同等に取り扱う上で必要なルールがまとめられています。
データインテグリティが脅かされたとき、最も大きなリスクが患者の健康状態に影響を与えてしまう可能性があることです。そのほか社会的信用の失墜、収益や株価の下落、FDAやEUから警告書が出されるなどのリスクがあります。
近年、医薬品の安全性を脅かすデータインテグリティ不適合が多数、指摘されています。エンドユーザーである患者さんが安心して利用できるように、データ管理については厳しい監視が求められています。そうした体制への、医薬品業界におけるデータインテグリティへの取り組み事例をピックアップしています。
医薬品データは、グローバルレベルで完全かつ一貫性を持った管理が求められており、複数のデータの存在や完全性が疑われるようなものはNG。昨今ではデータの国際基準化が進み、その管理も厳格化されてきているなど、データインテグリティへの対応が厳しくなってきています。そうした状況からも、データインテグリティ対応で実績を出している会社が注目されています。
日本の電機メーカーであり日立グループの中核を担っている企業。また、世界にも知られている総合電機メーカーです。Lumadaを活用したデジタルソリューションを提供しています。
会社情報
日本の大手総合電機メーカーで、産業用電気機器では日本国内で高いシェアを誇っています。幅広い分野に進出していますが、特に防衛エレクトロニクス分野や暗号化技術には秀でています。
会社情報
工業計器・プロセス制御専業の大手電機メーカー。ER/ES指針に対応した、医薬品製造工場へのトータルソリューションを構築したパッケージ製品を開発・提供しています。
会社情報
1990年に創立し、多数の国のシステム・ソリューションを取り扱っている国内総代理店。インテグレーションパートナーになると、リンクスの取り扱い製品を活用したサービスが提供できます。
会社情報
世界200カ国以上に拠点があり、日本では1887年に事務所が東京・築地に建てられました。SIMATIC SCADAシステムによるシステムソリューションを提案しています。
会社情報
分析機器や測定機器のバリデーションだけでなく、機器のプランニングや導入、メンテナンスなどライフサイクル管理をトータルでサポートし、業務効率化システムも提供しています。
会社情報
アメリカのカリフォルニア州に本社を置くグローバル企業であり、技術管理・予防管理・オンライン管理の3テーマを基盤として、製薬業界などの分析業務の効率化やネットワーク化を支援します。
会社情報
製薬業界向けのシステムソリューションを提供しつつ、海外メーカーの測定器や電子機器の輸入販売も行っています。また、導入システムのメンテナンスなどにも対応しています。
会社情報
全世界規模でシェアを広げる総合IT企業です。製薬業界におけるデータインテグリティや品質マネジメントに関して、様々なニーズに合わせたソリューションを提供しています。
会社情報
1894年の創業以来、一世紀以上にわたって構築してきた機械メーカーやシステムメーカーとのネットワークを活用し、データインテグリティへの取り組みを総合支援しています。
会社情報
ドイツ生まれの医薬品製造特化型実行管理ステム「Werum PAS-X」のソリューションパートナーとして、国内外におけるPAS-Xの導入を支援し、同システムの日本語化などもサポートしています。
会社情報
製造業向けのマネジメントシステム「mcframe」や、品質試験管理ソリューション「Waters NuGenesis LMS」などを開発・提供しており、データインテグリティ対応の管理体制や業務環境の構築を支援します。
会社情報
自動制御装置などのメーカーとして事業を展開しつつ、医療品・化粧品製造業界に特化したシステム開発部門「ISD事業部」を設置し、様々なパッケージ製品を提供しています。
会社情報
制御システムや各種センサの開発・製造を基盤事業としつつ、医薬・医療品産業向けのソリューションを展開しています。また法規制についてのコンサルティングサービスも行います。
会社情報
医薬品業界や製薬業界、食品業界などにおいて、製造装置やデータインテグリティサービスシステムといった製品の製造・開発・販売をワンストップサービスとして行っています。
会社情報
米国カリフォルニア州に本社を構え、日本国内にもモレキュラーデバイスジャパン株式会社を展開するグローバル企業です。世界標準のソリューションでデータインテグリティを維持します。
会社情報
製薬業界のラボをまとめてネットワークで連携してシステム化し、データインテグリティに対応したシームレスな検査・分析環境を総合的に構築できるソリューションを提供します。
会社情報
データインテグリティに求められているコンピューター化システムの要件について、医薬品業界でのコンピュータ化システムバリデーション(CSV)対応についてまとめてみました。適正管理ガイドラインやGMPにおけるコンピュータ化システムについても解説しています。
データインテグリティとは何を言い表しているのか?その定義などへの質問をピックアップ。米国食品医薬局(FDA)や厚労省のガイダンスなどによる、データインテグリティで意識しておきたい決まり事や、紙媒体もしくは電子生データでの管理・運用についてまとめてあります。データインテグリティについて初めての人でも、基本的知識を得ることで、それがどういったもののかがつかめてきます。
データインテグリティとは、米国食品医薬局(FDA)が求める、正確で間違いのないデータのこと。誰が記載したのかがしっかりと明記されており、第三者でも理解できる内容、観察・実験後すぐに記録されたオリジナルもしくは正本、データに誤りがないものをいいます。
製造記録や品質試験記録の改ざんを予防するために導入された、コンピュータ生成のタイムスタンプ付き電子記録です。作業途中における作成・修正・削除などの行動を、すべて把握・管理できます。これがないと査察を受けることはできません。
紙ベースでの運用でも、正確な情報を得るための細かく厳しい決まりがあります。データインテグリティのガイダンスやALCOA原則に沿った記録が必要。鉛筆や消しゴム、修正液などの禁止項目が見つかると、査察において指導を受けることになりますので要注意です。
Excelなどの電子記録によるバリデーションでは、作成後に改ざんしやすいなどの問題点があります。査察に引っかからないためにも、対策を講じてから導入するのが安心です。また、ハイブリット運用での順番も要注意です。
電子データは、紙媒体の記録と異なりコピーと原本の区別がつきにくくなるといった注意点があるため、どの時点のどのデータが生データであるのかをSOPで明確にしておかなければいけません。また、作成における注意点は、紙媒体とあまり変わりません。
多くの製造業で、インターネットでつないで工場内の作業の見える化が進められており、ネットワークソリューションとしてさまざまなソフトが開発されています。また、近年ではデータインテグリティへの指摘・指導も増えており、それに対応したIIoT化・デジタル化が求められています。スマートファクトリー化の課題と現実解を考察します。
選定ポイント
豊富な開発・導入実績を誇る、機能・UIに優れた完成度の高いパッケージ
医薬品業界に豊富な実績を持つ、高い完成度を誇るパッケージシステムであることが大きな特徴。
チュートリアル動画で見られるような使い勝手のよい開発環境をはじめ、追跡、監査証跡の出力・エクスポートが簡単で、データベースにアクセスしなくても操作できることなど、優れたUI・機能は、長年の開発実績があるzenonならではの魅力だと言えるでしょう。
プログラミングレスで実装でき、かつ300種類以上のPLCに対応しているので、データインテグリティに対応した、高度かつ柔軟なデジタル環境が実現可能になっています。