2021年8月より改正GMP省令において、データインテグリティに関する要求が盛り込まれます。どのような内容なのか、改正の目的は何かを解説します。また対象となる製品やGMP省令についても詳しくまとめました。
改正GMP省令の第一の目的は、国際標準であるPIC/S GMPガイドラインとの整合性を図ることです。PIC/Sとは、1995年に設立されたGMP基準の国際調和と各国当局による査察の質向上を目的とした規制当局です。
日本は2014年7月に加盟しており、今回の改正でより法的拘束力が強くなったと言えます。
また、医薬品品質システム(PQS)の導入も改正の狙いであり、これまで任意だった取り組みに法的効力が生じることで、厳格化されることになりました。
改正のポイントは以下の通りです。
とくに重要な変更ポイントについて詳しく見ていきましょう。
GMPの改正により、医薬品製造業者は実際に有効性が認められる「医薬品品質システム」を構築しなければならなくなりました。これは医薬品製造における品質マネジメントを一元管理できるシステムであり、PIC/S GMPガイドラインにおいても定められているポイントです。
また、医薬品製造業者は品質確保のための基本方針の作成や、品質目標に関する明文化及びその周知徹底についても求められます。
医薬品製造における品質マネジメントに関するシステムの構築に加えて、品質リスクマネジメントの構築及び製造管理・品質管理も徹底しなければなりません。
品質リスクマネジメントは医薬品の品質に関するリスクに対して、実効性のある対処や予防策を講じることであり、仕組みそのものの構築が必要です。
また、品質リスクマネジメントの構築には、適切な文章の作成や記録、責任の所在の明確化といった点も欠かせません。
品質マネジメントについて責任を果たすべき部署として「品質部門」の設置が必要とされていましたが、GMPの改正によってさらに「品質保証に係る業務を担当する組織」と「試験検査に係る業務を担当する組織」の設置が必要となりました。
また、各組織には適切なスキルや経験を備えた人員を十分に配置して、適正な業務の実行が求められます。なお、業務に支障がなければ試験検査が兼任可能です。
改正前のGMPにおいて「基準書」と定められていた文書は、改正GMPにおいて「手順書」と改められました。
そのため、例えば製造管理基準書であれば「製造工程、製造設備、原料、資材及び製品の管理に関する手順」となり、品質管理基準書は「試験検査設備及び検体の管理その他適切な試験検査の実施に必要な手順」と名称が変更されています。
その他にも17種類の手順書の別途作成が必要です。
実際の製品と製造販売承認書との間で相違点が増加している点を鑑みて、改正GMP省令においては製造業者と製造販売業者の連携強化が改めて定められました。例えば製造所で医薬品の原料や製品規格といった製造手順に関わる内容を変更し、それが医薬品の品質等に影響を及ぼすと考えられる場合、適切に製造販売業者へ情報を共有してきちんと連携しておくことが必要です。
当然ながら製品に重大な問題等が発生した際には迅速に製造販売業者へ報告しなければなりません。
交叉汚染とは、2つ以上の医薬品等を同じ製造所において製造する場合において、各工程内で両者の成分などが混在して汚染が発生してしまうことを指します。GMPの改正により、交叉汚染の防止を目的として製造手順等における適切な処置の実行が必要となりました。具体的には、空調設備の改善や作業室の設置など、構造設備に必要な対策を講じて、物理的に交叉汚染を防げるような取り組みが求められています。
((7)是正措置・予防措置(CAPA)の徹底)改正GMP省令では品質リスクマネジメントの強化策の一貫として、適切な「是正措置」及び「予防措置」に関する項目が明文化されました。是正措置とは問題の再発を防止するために実行されて然るべき具体的な原因に対す改善策であり、予防措置とはそもそも問題が発生しないよう事前にリスクコントロールを行うための対策です。
試験検査で問題が発覚した場合や製造手順に問題が発生した場合などにおいて、是正措置と予防措置の両方が必要となるケースもあります。
製造工程や検査工程において発生・記録したデータについて、完全かつ正確であると客観的に証明できるようデータインテグリティの確保が必要となりました。
データインテグリティの確保が適正に実行されていないデータは公的に信頼できる完全なデータであると認められません。また、製造の手順や記録の方法についてはあらかじめ指定されていなければならず、データの管理についても正確に実行されていく必要があります。
WHOの勧告を受けて、世界の国々では各国が独自のGMP省令を策定して、医薬品製造における基準等を定めてきました。しかし、近年は国際調和の推進や国家間における品質リスクの発生を回避するため、全世界的にGMP基準についてのグローバルスタンダード化が進められています。
中でもGMP省令の国際的な標準化に尽力している団体がPIC/S(医薬品査察協定及び医薬品査察共同スキーム)であり、日本は2014に加盟しました。これにより、日本においても加盟国の責任として世界基準を見据えたGMP改正が必要となったのです。
近年、製薬業界におけるデータの改ざんや作業手順における不正など、日本国内だけでも様々な問題が発生しており、中には大規模な記録偽造によって医薬品メーカーに対して業務停止命令が出されたこともありました。
これらは営利性を最優先する企業体質や、医薬品製造に関する経営陣の無理解などが一因であるとも考えられており、このような製造業界や関係企業の実態を受けて、企業の社会的責任や安全性の確保といったポイントが改めて重視されています。
改正GMPでは単に製造工程を厳正化するだけでなく、企業の体質や業界の悪習そのものの改善が目指されたともいえるでしょう。
バリデーションとは「適格性確認」とも呼ばれ、医薬品の製造工程や品質マネジメントにおける分析試験に関して定められている項目です。また、そのようなチェック項目を適切に確認・記録する業務そのものを指すこともあります。
バリデーションでは医薬品の製造工程において、あらかじめ用意されている手順や目的となる製品の内容、分析試験の過程などに関して実態が「期待される結果」に適合しているかを確認します。また、その結果について文書として確実に記録することも重要です。
なお「期待される結果」とは、分析試験に使用する機器や設備が本来の性能を備えているか、それらがきちんと設置され動作しているか、その試験結果が確かに信頼できるかといった項目が対象です。
改正GMP省令では従来のGMP省令よりも一層に基準が厳格化され、また名称に関する文言変更や用意すべき手順書の種類の増加といった事務的な作業においても改定が行われています。
そのため、既存の試験設備や分析装置、あるいは各種作業手順やマネジメント体制が的確に改正GMP省令に合致しているかチェックすることはもちろんとして、必要に応じて新しいシステムの導入や体制の構築といったことも検討していくことが大切でしょう。
GMPは「Good Manufavturing Practice」の略で、医薬品および医薬部外品の製造販売承認の要件として、医薬品および医薬部外品の製造所における製造管理や品質管理の基準を定めた厚生労働省令です。
原則として、医薬部外品の製造業者や製造販売業者は省令を遵守して、製造管理や品質管理を行わなければなりません。
2021年8月の改正で、国際標準のGMP基準との整合性を図り、時代の変化を反映した施策も取り入れられました。
GMP省令における3原則とは、大きく分けて「ヒューマンエラーの最小化」「医薬品の汚染・品質低下の予防」「品質について客観的に保証できる仕組みの構築」といったテーマが考えられます。ここではGMP省令の3原則について詳しく解説します。
GMP省令ではそもそも論として、ヒューマンエラーに関するリスクマネジメントの徹底が要請されています。どれほど作業手順や設備環境などが正しくそろっていても、実際に製造業務や検査工程を担当する人間にエラーやミスが生じれば本末転倒です。また、欠陥品をそのまま流通させれば深刻な健康被害が発生する恐れもあるでしょう。
そのため、GMP省令では人為的ミスを最小限に抑えられるような、物理的にもシステム的にも多角的なアプローチの実行が必要とされています。
具体例としては作業空間の確保や設備利用に関する標示の設置、手順書の共有や人材教育といったものが挙げられます。
ヒューマンエラーが発生していなくても、何かしらの原因や突発的な問題によって医薬品が汚染されたり、品質が低下して本来の製品基準を満たしていなかったりといったリスクは無視できず。医薬品の汚染・品質に関するリスクは、製造工程の全てのタイミングにおいて潜在しており、対策としてはトータルの品質リスクマネジメントの構築が不可欠です。
空調設備や製造設備といった施設に関する内容から、作業従事者への教育や作業手順の適正化、データインテグリティの確保といった様々な点が大切なのは言うまでもありません。
品質リスクマネジメントの構築を始めとして、品質の信頼性や信用性を担保できるようなシステムや仕組みを具体的に構築しておかなければなりません。
誰が製造作業の担当者になっても同じ品質を保って製造できるような仕組みや環境を整えるだけでなく、誰が検査を担当しても客観的に信頼できるデータや記録がまとめられ、問題点が見つかれば速やかに是正されることが重要です。
GMP省令ではハード面の対策からソフト面の対策まで総合的なシステムの構築が要請されており、またそれらは定期的に見直され現況に合致していることが保証されていなければなりません。
ほとんどの医薬部外品がGMP対象となりますが、医薬部外品に該当する製品でも、GMP省令の遵守が必要でないものもあります。
ここでは、対象とならない製品を紹介します。